う一体に薄墨をはいた様になってしまって居る。
 そのぼやけた表紙から、はじけた綴目から、裏まで細々と見てから、中についた幾枚もの写真を、はたで見るものがあったら仰天する位の丁寧さでしらべて行った。
 何々の宮殿下、何々侯爵、何子爵、何……夫人、と目にうつる写真の婦人のどれもどれもが、皆目のさめる様な着物を着て、曲らない様な帯を〆、それをとめている帯留には、お君の家中の財産を投げ出しても求め得られない様な宝石が、惜し気もなくつけられて居る。
 どの顔にも、――それは年取ったと若いとの差は有っても――満足して嬉しがって居るらしい、又金持らしい相があると、お君は思った。
 これにくらべて見ると、いつだったか、夜一寸出た時に、おじいさんの卜者に見てもらった時に、
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 貴方は、苦労する相ですぞ。
 気をつけんきゃあならん、なあ、
 金と子の縁にうすいと出て居る。
[#ここで字下げ終わり]
と云われたのが事実らしく思われて、暗い気持になった。
 帯の結び様でも、指環の形でも、いつの間にか、見も知らなかった様なのが出て居た。お君は、一つ一つの写真について頭から爪先《つまさき》ま
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