仕やはっても、いい智恵の浮ばんお人やし、達《たつ》やかて、まだ年若やさかい、何の頼りにもならん。
[#ここで字下げ終わり]
たよりにならない、母親や弟の事を思って、お君はうんざりした様な顔をした。
誰か一人、しっかりとっ附《つ》いて居て安心な人を望む心が、お君の胸に湧き上って、目の前には、父親だの母、弟又は、家に居た時分仕事を一緒にならって居た友達の誰れ彼れの顔や、話し振りがズラッとならんだ。友達共は、皆相当に、幸福に暮して居るのに、自分は今どうして居るのだろうと思うと、薄い眉根にくしゃくしゃな「しわ」を寄せて、臭い様な顔付をした。
そして、さのみ気が乗ったでもない様にして、枕元の小盆《こぼん》の傍に小寒く伏せてあった雑誌を取りあげた。お金が小やかましいので、日用品以外の物と云ったら、自分の銭で買う身のまわりの物まで遠慮しなければならない中を、恭二がお君のために買って来てくれたたった一冊《いっさつ》の雑誌である。
幾度も幾度も繰り返して、まるで、饑えた犬が、牛の骨をもらいでもした様にして見るので、銀地へ胡粉で小綺麗な兎を描き、昔の絵にある様な、樹だの鳥だのをあしらった表紙も、も
前へ
次へ
全88ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング