影の方へ行って飛び込めば、橋からも遠いし、舟のつないである所からも隔って居るから見とがめられる様な事はあるまい。
水で死んだもの特有のギーンと張り切った体が水の上にただようて居るのが見えたりした。
義母のひどい事を長々と遺書にして、下駄の上にのせ、大きな石を袂に入れて……
身も世もあらず歎く母親の心を思う時、お君は、胸がこわばる様になった。
始めて目の覚めたお金奴の顔が見てやりたい。
さっきっから渋い顔をして何事か案じて居た栄蔵は、
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「私は、今夜の夜行でどうしても立って行くさかい、お前も一緒にお行き。
こんなところに居ては気づかいで重るばかりやないか。
な、そうしよう。
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立ちあがって、グングン上前を引っぱりながら出し抜けにそう云った。
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「今夜え?
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あんまり急なのでお君はまごついた。
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「ああ一刻も早い方がいいんや。
「いくら早い方がいいやかて、あんまり急やあらへんか。
それに、まだ体が動かせんさかい。
「ほんに、
知っとりながらつい忘《わっ》せ
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