てしもうた。
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自分だけは立つ積りと見えて、隅からカバンを出して、片づけ始めた。
口を酸くしてもうせめて二日だけ居てくれなければしたい話も仕切れずにあるからと引きとめたけれ共、もう腹立たしさに燃えて居る栄蔵は、
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「もう一度きめた事はやめられん。
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と云い張って、どうしても聞かなかった。
流石にあわてて居るお金夫婦を目にかけて、快い様な顔をして栄蔵は家を出た。
出しなに、お君に、汽車賃から差し引いた一円の残り金を紙に包んで枕の下に押し込んでやって、川窪から達の事について面白くない事をきいて来た、今度来たらお前から聞いて戒めて置けと云い置いた。
お君は別れの挨拶もろくに出来ないほど悲しがって居た。
栄蔵の決心は幾分か鈍ったけれど自分の心に鞭打って恭二に送られて行って仕舞った。
二人は、寒い夜道を、とぼとぼと歩きながら淋しい声で辛い話をしつづけて居た。
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「哀れなお君を面倒見てやって下さい、
私の一生の願いやさかいな。
ほんにとっくり聞いといで下さる様にな。
貴方さえ、しっかり後
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