ああ。
「お目出たいわけだ、
返すもんですかね。返さないにきまってるから川窪さんで、返したらやろうと云ったんでさあね。
馬鹿馬鹿しい、
たった十円で、うまくおっぱらわれて来てさ。
「お前みたいに、何もかも疑ごうとったらきりがあらへんやないか。
川窪はんに限って、そんな事する人は居ん。
おっぱらわれたなんて、私は『強請《ゆすり》』に行ったんやあらへんよ、
たのんで出して御呉れ云うて来たんや。
「いくら貴方ばかりそうやって力んだっておっぱらわれたに違いないんですよ、
私なら、眠ってたってそんな鈍痴《どち》な真似はするもんか。
漸う巧く見附けたと思ったらすぐポカと手放して仕舞うんだもの、
そんなだから話のらちが明かないんですよ。
「いい加減にしよ、
川窪はんの云いはる事なら間違いないと思うとるんやさかい、ああやって、出来にくい相談にも乗ってもろうたんやあらへんか。
よりどこのない空世辞を並べる人とは違う、
先代からの人を見て私にはよう分っとる。
「そいでもね、時には嘘も方便ですよ。ね、世の中を正直一方に通したら十日立たないうちに乞食になってしまう時なんですよ。貴方みた
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