あの人はもう隠居同然にしとるんやからなあ。ほらあの、父親のつけた名が下品やとか云うて自分で、何男とやら改名した人や。
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金の事になると馬鹿に耳の早いお金がいつの間にか、栄蔵の傍に座って話をきいて居た。
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「川窪さんでもよくそいだけ出してくれましたねえ、
内所がいいと見える事。
私はきっと無駄骨だと思って居たが。
「世の中は、うまく出けたもんで捨る神あれば又拾う神ありや。鬼ばかりは居らへん。
「有難いもんですねえ。
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お金は十円札に厭味な流し眼をくれて口の先で笑った。
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「けど何なんでしょう、
それだけで一年分をすませるつもりなんでしょう。
まさか一月分ホイホイ出す人もないだろうから……
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栄蔵は、よく丁寧に、田舎の貸金の事を話した。
フム、フム、と鼻をならして聞いて居たお金は話が仕舞うか、仕舞わないに、
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「あんた、ほんとにそれの世話を焼くつもりで居るんですか。
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と短兵急に云った。
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「
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