ぞしてやるさかいに又明日|来《き》云うてやった。先の頃の事などパッキリ忘れて会うとくれやはったさかい、ほんに有難かった。
「そうだろうってねえ。
 何しろ月々十円ずつ余分に吐き出さなきゃあならないんだもの。
 いやなのは、私共みたいな貧亡[#「亡」に「(ママ)」の注記]人に限った事っちゃあない。
 何と云っても、金の世の中さ。
[#ここで字下げ終わり]
 お金は、川窪なんぞにと云う様に笑った。
[#ここから1字下げ]
「お前笑うてやが、私が川窪はんへも行かんでお前ばかりにまかいといたら困るやろが、
 ひとが、云いにくい事云うて来てんに笑うもんあらへんやないか。
[#ここで字下げ終わり]
 お金が口の中で、何かしきりにブツクサ云って居るのに見向きもしないで、お君の枕元へ行った。
[#ここから1字下げ]
「お帰り。
 お寒おしたろ。
 又、義母はんが、何か、やな事云うてやな、
 ほんにあかん。
[#ここで字下げ終わり]
 栄蔵は、娘の言葉が、胸の中にスーと暖くしみ込んで行く様に感じた。
 新聞を畳んで、栄蔵は買って来た花の鉢をのせた。
 真紅な冬咲きの小さいバラの花が二三輪香りもなく曲った
前へ 次へ
全88ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング