事はございませんねえ。
お君さんがそんななんでございますか、まあ死ぬんでございますか奥様。
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と、如何にも、思いがけない事があるもんだと云う様な顔をして居た。
終いには、
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「兎に角、時候が悪いんだねえ一体に。
お前方も、手や足を汚くして爪を生やして居るとあんな大した事になって仕舞うよ。
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と、始終土間に下りて居る男の子達に注意したりして、床につく頃には、皆の頭の中にはお君の病気と云う事が僅かばかりこびりついて居るだけだった。
又明日訪ねる約束をして栄蔵は幾分か軽い、頼り処の出来た様な気持になって、お君への草花を買うとすぐ家へ帰った。
一番待ち兼ねて居た様な様子をしてお金は顔を見るなり飛び出した様な声で、
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どうでしたえ
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と云った。
中腰になって部屋の角へ、外套だの、ネルの襟巻だのをポンポン落してから、長火鉢の方へよって来た栄蔵はいつもよりは明るい調子で物を云った。
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「まだ何ともきまらん。
けど、奥はんが大層同情して、けっとどう
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