を、何としたのか沢山の工夫が鶴端[#「端」に「(ママ)」の注記]をそろえて一杯に掘り返して居るので、目じるしにして来た曲り角の大きな深い溝も、御影石の橋を置いた家も見失って仕舞った。
 交番さえも見つからずに、あっちこっち危い足元でまごついて居る間に、馬子に怒鳴りつけられたり、土をモッコにのせて運ぶ十六七の若者に突飛ばされて、
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「眼を明いて歩けやい。
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と云われたりした。
 酒屋の御用聞に道を教わって、何年も代えない古ぼけた門の前に立った時、気のゆるみと、これからたのむ事の辛さに落つきのない、一処を見つめて居られない様な気持になった。
 大小不同の歩き工合の悪い敷石を長々と踏んで、玄関先に立つと、すぐ後の車夫部屋の様な処の障子があいて、うす赤い毛の、ハッキリした書生が、
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 どなた様でいらっしゃいますか。
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ときいた。
「昆田《こんだ》」と云う誰でもが覚えにくがる栄蔵の名字を二度ききなおしてから、奥へ入って行ったがやがてすぐに客間に通された。
 あの茶色の畳の下駄を書生の手でなおされるのかと思
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