それに、あそこの院長はんが親切なお人で、何《な》んでも廉《やす》うしとくれやはるんさかい。
「そんなら十円あれば、まあええのやな。
そう云うわけやったら私《わし》も、どうぞして十円ずつは出してもらうようにしよう。
「出してもらう? 誰にえ。
「月に十円ずつ出しとくれやす人はなかなかあらへんのやけど、放とくわけにも行かん故、間が悪いけど、川窪はんに出《だ》いてもろうと思うとるんえ。
外に誰ぞ、ええ人があるやろか。
「さあ。
ほんま云えば、川窪はんへそな事云うて行かれんわなあ、父はん、
私が、不首尾な戻り様したのやから、あの奥はんもさぞ気まずう思うといでやろから……
でも此家《こちら》へ来て間もなく、挨拶かたがた詫に行たら、どこぞへ行きなはるところやったが、物を祝っとくれやして、いろいろねんごろにしとくれやはったほどやから、うちで思うとるほどでもないかもしれんが……
「な、そうきめよ、
外にしようがあらへんやないかい。
「そうやなあ。
[#ここで字下げ終わり]
恭二が、ムクムクとしたので、云いかけた言葉をお君は引こめた。
疲れて居る栄蔵は、一寸の静けさの間にすっかり眠って
前へ
次へ
全88ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング