まどわずに有り体に云ってすがられるものをと、下らない事に、先《さき》の気を悪くする様な事をした娘が小憎らしかった。あっちこっち烏路《うろ》ついた最後は、やっぱり川窪をたのむより仕方のない事になった。
 娘に相談する気になって、
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「お君起きてんか?
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と云った。
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「何え、父はん。
「私もな、今つくづく思うて見たんやが、金出してもらうにしろ、どいだけずつ入るんやかはっきり知れんでは、うちあかんさかいお前見つもって見てんか。さっきも、お金が云うてやが、月々二十円ずつ入るやそうやが、ほんまかい。
 若しそんなだったら、もう私の力ではどむならん。
「二十円え?
 母《かあ》はんがそう云っといしたかの。
 そんな事、あるもんどすか、
 十円も、もろうてあればようまっしゃろよ、
 何んも、偉う高えもの食べるやなし、一週間入院する『はらい』さえ出けたらええどすもの。
「そいで、入院するに、どの位入るんや。」
「そやなあ。
 下等の病気[#「気」に「(ママ)」の注記]に入とるのやさかい八九円だっしゃろ、
 いろいろなものを交ぜて。

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