話下手な栄蔵は、お金などを云いくるめる舌はとうていないので、否応なしに、お金がやめるまで、じいっとして聞いて居なければならなかった。
話の一段落がつくと、安息所へ逃げ込む様に栄蔵はお君の傍に行った。
若い二人は何か、笑いながら話して居た。
苦労も何もない様にして居る二人を傍に長くなって見て居るうちに、これほど大きなものの父であると云う喜びが、腹の底から湧いたけれ共、自分の貧乏を思うと、出かかった微笑みも消えてしまった。
恭二の顔をまじまじと見ながら、
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「貴方も、この様な足らん女子に病んで居られて、さぞ辛気臭う、おまっしゃろが、
どうぞ、たのんますさかい、優しゅうしてやって下さい。
私が目でも見えてどしどし稼《かせ》げたら、何ぞの事も出来るやろが、もう廃人なんやから、お君は、貴方ばかりをたよりにしとるんやさかいなあ。
此女《これ》も、親子縁が薄うおすのや。
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と哀願する様にたのんだ。
チラッとお君の顔を見て、軽い笑を口の端の辺にうかべながら、
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「ええ大丈夫です、
御心配なさらずと。
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