記]を、お君のために作って居た。
 いつなおると云うあてもない病人にかかる金の予算はもとより立たないけれ共、月に一週間の入院料、前後のこまこました物入り、薬代などのために、月二十円は余分に入るとお金は云った。
 栄蔵は、身内の事だからそうそう角だった事を云わずに、嫁だと思って、出来るだけの事をしてくれと云った。
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「そうですよ、勿論。
 私は何も、一文も出さないと云うのじゃあなし、勘定書を書いて、はいおはらい下さいとも云いやしませんさ。
 けど、私だってよそに来て居るのに、先の様に用立てて居る上に又、あんまりぽんぽん血の様な金をつかっても居られないじゃあありませんかい。
 あれだって、私は一度だって、返して下さいなんて云った事はないじゃあありませんか。
[#ここで字下げ終わり]
 そう云われれば栄蔵の返す言葉がなかった。
 去年の中頃に、お節が長病いをした時、貸りてまだ返さずにある十円ばかりの金の事を云い出されては、口惜しいけれど、それでもとは云われなかった。
 自分が、それを返す余地がないと知って、余計に見込んで苦しめる様な事をするお金も堪らなく憎らしかった。

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