人達は、ほんとに気の毒でさあね。
 会計の方じゃあ、まあ、おとつあんが居なけりゃあと云われるし、取り締りの方では、恭二が年の割りに立てられて居るんだしするから……
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 良吉は、
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「広告はよせよ、
 おい、良《い》い加減にしなきゃあ、兄さんがあてられるぜ。
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と云いながら、お金に油をさし、いよいよ滑らかになる女房の舌の働きに感心して居た。
 専売局に、朝から晩まで働いて家の暮しを立てて居た。
 今年二十三になる恭二にはまだ独立するだけのものは取れなかった。
 体は弱し、中学を出たきりなので、これぞと云う働きもない男に、そう十分なだけのものをくれる慈善家はこの世智辛い世の中には居ない。
 恭二は静岡の魚問屋の坊ちゃんで、倉の陰で子守相手に「塵かくし」ばかり仕て居たほど気の弱い頭の鉢の開いた様な子だったが十九の年、中学を出ると一緒に、良吉の家へ養子になった。
 良吉の妹が口を利いたので、母親がほんとでありながら、愛されて居なかったので、父親の意志で、恭二は良吉の後継者と云う事になった。
 十九にもなったものを只食わしては
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