なって行った。
 義太夫語りの様なゼイゼイした太い声を出して、何ぞと云っては、
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「ウハハハハ
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と豪傑を気取り、勿体をつけて、ゆすりあげて笑った。
 色の小白い、眼の赤味立った、細い体を膳の上にのしかけて、せっせと飯を掻込《かっこ》んで居る恭二のピクピクする「こめかみ」や条をつけた様な頸足しを見て居るうちに、栄蔵の心には、一種の、今までに経験しなかった愛情が湧き上った。
 白い飯を少しずつかみしめながら、自分の娘の夫《おっと》の若い男の様子を静かに、満足らしくながめて居た。
 恭二の人物がいいと云うのではなし、どこがどう可愛いと云うのではないけれど、何とも云うに云われぬ、なつかしみを感じた。
 少しばかりの菜でそう長飯しの出来る筈もなく、じきにコソコソと食事が片づくと話が局の事に渡った。
 この不景気で近々人減しがあるので随分惨目なものが多いと良吉が云うと、お金は、すぐその言葉じりをとって、
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「けどまあ、『うちの人』や恭二なんかは、永年お役に立ってるって云うので、そんな心配のいらない有難い身分なんですがねえ、そんな
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