へんさかい辛うおまっしゃろとは思っとりますわな。
けど、あんまりどっせ、
わざと私が病んどる様に云うてなはるんやから。三度のものを一度にしても、実家《うち》ほどええとこあらへんと、しみじみ思いまっせ。
[#ここで字下げ終わり]
いろいろ下らん事で心配をかけてすまないとか、ほんとに不孝な子を持った因果とあきらめてくれ、などと涙声で云われると、却って栄蔵の方が、云い訳けをしたい様な気持になった。
十円といくらかの銭ほかない貧乏親父をこんなにたよりにして、どうする気なんだろうとも思った。
火ともし頃になって恭二と良吉が局から空弁当を下げて帰るまで枕元に座ったっきり栄蔵はお君のそばをはなれなかった。
良吉は、飯《めし》の時に新らしい魚をつけろの、好い酒を燗しろのと云って居たけれ共、長火鉢の傍にそろった四つの膳は至極淋しいもので「鰤」の照焼に、盛りっきりの豆腐汁があるばかりであった。
小盆の上に「粥《かゆ》」と「梅びしお」といり卵の乗ったお君の食事を見て栄蔵は、あの卵は今日だけなんだろうなどと思った。
良吉は、油っ濃くでくでくに肥って、抜け上った額が熱い汁を吸う度《たん》びに赤く
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