#ここで字下げ終わり]
口下手なお君には、これ以上云えなかった。云いたい事が胸先にグングンこみあげて来は来ても、一|連《つなが》りの言葉には、どうしてもまとまらなかった。
お金への手土産に、栄蔵は少しばかりの真綿と砂糖豆を出した。
こんなしみったれた土産をもらって、又お金は何と云うかと、お君は顔が赤くなる様だったけれ共、何か思う事があると見えて、お金は、軽々振舞って、
[#ここから1字下げ]
よく見て御出で、
こんなにお君を親切にしてやったのだから。
[#ここで字下げ終わり]
と云う様に、頼みもしない髪をかき上げてくれたり、茶を入れてくれたりした。
お君には、それが、いかほどか口惜しかった。
お金が台所へ立ってしまうと、お君は父親をぴったり枕のそばに引きつけて、ボソボソと低い声であらいざらいの事を話して愚痴をこぼしたり、恨みを並べたりした。
毎月一週間ずつ入院して、病のある骨盤に注射をしたり、膿を取ったりしなければならないので、かなりの物が入る。
金ばなれの悪い姑から出してもらう事は、いかにも心苦しいと云った。
[#ここから1字下げ]
「そらなあ、
お大尽はんやあら
前へ
次へ
全88ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング