病気の経過だの、物入りだのを、輪に輪をかけて話して、仕舞いにはきっと、自分の益《ため》になる方へと落して行った。
栄蔵は、いやな女だと思いながら、我慢してその話をきき終るとすぐ、お君の部屋へつれて行かせた。
すぐ、襖一重の隔たりだのに、何故、始めから此の部屋へ通さないのかと云う様な、つまらない不平まで起って来た。
枕元に座ると、お君はもう何とも云えない気持になって、
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父はん、
よう来とくれはったなあ。
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と云うなり、この半年ほどと云うもの堪え堪えして居た涙を一時にこぼした。
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「どうや、
母はんが偉う案じとる。
わしも、こんなやさかい、来んとよかろう云うたんやけど、行け行け云うたので出て来たんや。
さほどでもあらへんやないか、
やせ目も見えんやないか、なあ。
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病後の様に髭を生やして、黒目鏡をかけた貧しげな父親の前に、お君は、頬や口元に、後れ毛をまといつけながら子供の様に啜泣いて居た。
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ほんによう来とくれやはった、
まっとんたんえ、父はん。
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