、何せ、旅費位、どうでもなるんやさかい、
 ほんにいんどくなはれな。
 今、十五六円ばかり、すっかりで、ありまっさかい。そい持ってお行きやはったら、ようおっしゃろ。
 仕事の手間や何かで、私など、どうでもして行かれまっから。
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 お節は、気のすすまなそうに、行くとも行かんとも云わずに、ムッつりして居る栄蔵の顔を見た。
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「そやな、
 どうでも行かずばなるまいかな。
 ほんに、私《わし》も貧乏な懐で、金のぱっぱと出入する東京には、行きとうない。
 戻って来る時、財布は、空っぽになっとってる様やったら、随分、何だろが。
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 あらいざらいの金を、お手っぱらいに出した後《あと》をどうするのだろうと云う懸念が、栄蔵の頭からはなれなかった。
 けれ共、行かないわけには行かない。
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「お君も、縁に薄い子だすえなあ。
 貧乏な親は持つし、いやな姑はんに会うし。
 そいに、何ぼ何やて、お金はんも、あんな業慾な人やないやろ思うてましたものなあ。
 まあ、まあ、
 何んも彼も、めぐり合わせや。
 私が、いくらややこし
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