親にはなれて居るほど心細いものはあらへん。
 汽車賃位いどうでもしまっさかい。
「私《わし》が行く様《よう》んなったら汽車代だけやすまん。
 お金奴、あらいざらいの勘定をさせる魂胆なんやから、素手でも行かれんわな。
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 お節は、いざ栄蔵が行くとなると、ぜひ持たしてやらなければならない金高を胸算用した。
 汽車賃、小使い、お君へかかったものの勘定、あれやこれやではなかなかさかさに立っても、出せないほどの高《たか》になった。
 筒袖を着物の様に合わせた衿に深く顎《あご》を埋めて、金の出所をお節は思案した。
 東京の様な質屋めいた家もないではないけれども、栄蔵の元の位置を考えれば、まさかそんな事も出来ないし、今急に、少しでも田地を手ばなす気にもなれなかった。
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「ほんにどうかならんかな。
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 お節は意地のやけた様に、玉のないそれでも本銀の簪《かんざし》で、櫛巻にした少しの髪の間を掻きながら、淋しそうに、ランプの灯の前に散って来る細かい「ふけ」を上眼に見て居た。
 別にいい考えも浮んで呉れない。
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「ま
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