「そんな、阿房な事あるもんか、
 でも、わしに来い云うてんやが、実際困って仕舞うなあ。
 第一行く金からしてあらへん。
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 少しばかりの金の事で、度々辛い目にも会っては居ても、親身の娘の病気となると、余計に、ふだん、欲しくない金も欲しくなった。
 貧亡[#「亡」に「(ママ)」の注記]しても、コンミッションで喜ばれるよりええと云って、空元気をつける栄蔵も、お節の心が今となって、しみじみ味わわれた。嫁入りの時作った小紋の重ねだの、八二重の羽織などにかけた金が今あったらと、今手元にあったら、買って仕舞わないものでもない[#「ない」に「(ママ)」の注記]ほど、金の光が恋しかった。
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「そいでもな。
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 お節は、沈んだ声で、うつむいて、ひろげた手紙を巻きながら重く口を開いた。
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「貴方《あんた》行んでおやんなはれ。
 あんなに、常々つけつけ云うお金はんやさかい、どんな事云われとるか知れんさかい。
 な、私で話が分るんなら行んでも来ようが、こう云う事は、女子ではらちが明かんさかいな。
 病気になった時、
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