小寂しい姿ばかりが残るのである。
ややしばらく身動きもしないで居た栄蔵は、片手をのばして、お節の針箱のわきから、さっき来た手紙を取った。
娘の手蹟を、なつかしげに封を切って、クルクルクルクルと読んで仕舞うと、ポンと放り出して、
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「あかん。
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とうめく様に云った。
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「何んや、
どこからよこいたんどすえ。
「東京――お君からよ。
病気になって、偉う困っとる云うてよこいたんや。
腰の骨が膿んだ云うてやが、そんな事あるもんやろか、
とんときいた事はあらへんがなあ。
「え? 腰の骨が膿んだ。
まあまあ、どうしたのやろ、
あかんえなあ。
そいで何どすか、切開でもした様だっか。
「うん先月の十一日に切ったそうや。
もう一月やな。
そいに、何故、もっと早う云うて来んのやろ。
何と思うて、今まで、延ばしよったんか、そいやから彼《あ》の娘《こ》、いつもいつも抜けや云われるんや。
「ほんにまあ、どうしたんやろか。
去年の『厄《やく》』は無事にすんださかい安心しとったになあ、方角でも悪いんやろか、気がつかなんだが
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