ゅう云うたとて、何んもならへん……
[#ここで字下げ終わり]
と云うと、お節は、心配にだまり返って、仕事を片づけ始めた。
虎の子の様にしてある二十円近い金を手離なさなければならないのを思って、寒い様な気持になったお節は、ランプの、わびしい黄色い灯かげを見ながら、
[#ここから1字下げ]
「アアアア
[#ここで字下げ終わり]
と生欠伸をかみころして、生ぬるい、ぼやけた涙をスルスル、スルスル畳にこぼした。
乏しい懐のまま、栄蔵が旅立って行ってしまってから、ぽつんとたった一人になったお節は、長火鉢の下引出しに入れた五十銭の金のなくならないうちにと一生懸命に人仕事をした。
かなり困った生活をして居るのに、士族の女房が賃仕事なんかする奴があるかと云って栄蔵は、絶対に内職と云うものをさせないので、留守の間にと、近所の者達のところから一二枚ずつ、
[#ここから1字下げ]
「一人で居るので、あんまり所在ないから。
[#ここで字下げ終わり]
と云って仕事をもらって来て居た。
出来るだけの事をせんではと一心に思って居るお節は仕事をたのんだ百姓共が、
[#ここから1字下げ]
「ほんにこの頃は、よっ
前へ
次へ
全88ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング