のになってしまった。
 田舎に居て、東京の様子に暗い夫婦は、血縁と云うものが、この世智辛い世の中で働く事を非常に買いかぶって、当座は大船にでも乗った様な気で居た。けれ共、折々よこすお君からの便り、又、東京に居る弟の達からの知らせなどによると、眉のひそまる様な事がやたらとあった。
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「どこもこんなもんよ。
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 栄蔵は、若いものには苦労させるのが薬だと云ってさほどにも思って居なかったし、又、今となってどう云ったところで、始まらないともあきらめて居た。
 娘があんまり利口《りこう》でもないしするから、片方の口は信じられないと、女の子によほど心を傾けて居ない栄蔵は、やきもきして、どうにかせずばとさわぐお節をなだめて居た。
 仕舞には、きっと、
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「今になって、何や彼やわしにやかましゅう云うてんが、知らん。
 お前が、せいて、早う早う云うてやったんやないか。蒔いた種子位、自分で仕末つけいでどうするんや。勝手もいいかげんにしとけ。
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と、とげとげしい言葉になって、気まずく寝て仕舞うのが定だった。

 暗いラ
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