れない気になった。
けれ共、勿論働く方法も見つからなかった。栄蔵は、一思いに、体の半分が無くなった方がどれほど楽か分らないと思うほど、刻一刻と世の中が暗くなる「そこひ」と云う因果な病にかかった事を辛がった。道を歩くにもすかしすかししなければ行かれないほどになってからは、自分でも驚くほど、甲斐性がなくなり、絶えず、眼の前に自分をおびやかす何物かが迫って居る様に感じだした。
物におどおどし、恥しいほど決断力も、奮発心も失せてしまった。
貧と不具にせめさいなまれて、栄蔵の神経は次第に鈍く、只悲しみばかりを多く感じる様になった。
今度お君を自分の妹の家へやるについても、栄蔵の頭には、これぞと云った父親らしいまとまった考えは何一つなかった。
只、母親のお節が、狭い村中の母親共に「ほこり」たいため、チンとした花嫁姿が一時も早く見たかったため殆ど独断的に定めてしまったと云ってもいいほどである。
気心の知れない赤の他人にやるよりはと云い出したお節の話が、お節自身でさえ予気[#「気」に「(ママ)」の注記]して居なかったほど都合よく運んで、別にあらたまった片苦しい式もせずに、お君は恭二の家のも
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