、息子の恭二と父子が出かけたあとは食事時の外大抵は、方々と話し歩いて居るお金が、たまらなく小憎らしかった。
 みじかい袂に、袂糞と一緒くたに塩豆を入れたりして居る下等な姑から、こんな小言はききたくないと云う様な気にはなっても、気の弱い、パキパキ物の云えないお君は、只悲しそうな顔をして、頭をゆすったり夜着を引きあげたりするばかりであった。
 病気になったその日からお君は絶えず、
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 どうしよう
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と云う感じに迫られて居た。
 この考えは、何事をもたじたじにさせた。
 只どうしようと云うばかりに国許へは一度も知らせてやらなかったし、弟に来てくれとも云ってやらなかった。
 それが、どう云うわけと云うではなく、只、どうしていいか見当のつかない様な心から起った事である。
 塩からく、又生ぬるい涙が、眼尻りから乱れた髪の毛の中に消えて行った。
 お金は、行こうともしずにピッタリお君のわきに座って居る。
 お君は、救を求める様に、シパシパの眼をあいたりつぶったりして居ると耳元で、何かが、
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「お父さんに来てもろうたがいい
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