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と云う様に感じた。
 お君は、いかにも嬉しそうに、パッとした顔をして、一つ心に合点すると共に、喜びを押えつけた様な低い鼻声で、
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「父はんに、来てもらお思うとるんやけど、どうどましょうなあ。
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と云った。
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 そうさねえ、それも悪かああるまいよ、
 来てどうにかなればねえ。
 けど、何んに来たんやら分らない様にして、只食べるばかりで帰られちゃあなお尚だが。
 そいで、まあ、父さんでも来たら何ぞって云うあてがあるのかい。
「別に何ぞって――
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 お君は、がっかりした様な声で眼の隅から鈍くお金を見て返事をした。
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「とにかくそいじゃあそうして見るがいいさ、いくら彼んな人だって男一匹だもの、どうにかして行くだろうさ。
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 お君は、今先[#「先」に「(ママ)」の注記]ぐにも手紙を書こうかと思ったけれ共、両眼ともが、半分|盲《めし》いて居る父親が、長い間、臭い汽車の中で不自由な躰をもんで、わざわざいやな話をききに来なければならないのを思うと、髭
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