げ終わり]
とうす赤い顔をして返事をするのを見てお君は、そうやって、たのまれてくれるのも夫なればこそ、ああやって頼んでくれるのも親だからこそと、しみじみ嬉しい気持になって居た。
恭二と栄蔵とは、お君を中にはさんで、両側に、ねそべりながら、田舎の作物の事だの、養蚕の状況などについて話がはずんだ。
そう云う事に暗い恭二が、熱心に、
[#ここから1字下げ]
「そうすると、どうなるんです?」
[#ここで字下げ終わり]
などと、深く深く問うて来るのを、説明するのが栄蔵には快よかった。
折々、
[#ここから1字下げ]
「な父はん、私も。
[#ここで字下げ終わり]
などと、自分の病気についての事を云い出したい様にして居たけれ共、栄蔵は、種々な話に紛《まぎ》らして、一寸の間も、否《いや》な話からのがれて居たがった。
お君にあれこれ云わないでも、もう心の中はその心配で、一杯になって居る。
一升徳利に二升入らない通りに、栄蔵の心は、これ以上の心配を盛り切れない状態にあった。
お君を迎えに田舎に行った時に会った栄蔵と今の栄蔵とは、まるで別人の様に、恭二の眼にうつった。
急にすっかりふけてしまって居る。
前にもまして陰気に、影がうすく、貧しげである。
あれから、半年ばかりの間に、どれほどの苦労をしたのかしらんと、恭二は、ぼんやりと、無邪気な、子供が鳥の飛ぶのを驚く様な驚きを持って居た。
隣の間の夫婦は、こっちに声のもれないほどの低い声で、何やら話し会って居るらしい。折々、
[#ここから1字下げ]
「フフフフフ
[#ここで字下げ終わり]
とか、「いやだねえ」
などと云うお金の声が押しつぶされた様に響いて来た。十二時過まで、何かと喋って居た三人は、足らぬ勝の布団を引っぱり合って寝についた。
恭二が、じきに、フー、フーといびきをかき始めると、急に、夜の更けたのが知れる様に、妙にあたりがシインとなって仕舞った。
部屋の工合が違うので、ゴロゴロ寝返りを打ちながらうかうかとさそわれ気味で、出て来は来ても、これからたのみに行って、金策をしてもらうべき人達を、今になって、あたふたとさがさなければならなかった。
あの人や、この人や、栄蔵と親しくして居るほどの者は、皆が皆、大方はあまり飛び抜けた生活をして居るものもないので、勢い、同情を寄せてくれそうな人々を物色した。
知人の中には
前へ
次へ
全44ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング