ったるく、重く、のしかかって来る。
やがて、恭二などが帰って来る頃なので、髪をまとめるつもりで頭に手をやりはやっても、こらえきれないねむたさに、その手をどうにも斯《こ》うにもする事が出来なかった。
二時間ほどして、二人が戻った頃には、お君は、黄色い光の下で、たるんだ顔をなげ出して、いびきをかきながら夢も見ない眠りに陥ちて居た。
(二)[#「(二)」は縦中横]
何かにつけて頼りになるべきお君の実家《さと》は、却って自分が頼られるほど貧しい、哀れな生活をして居た。
元は村のかなり好い位置に居て、人からも相当に立てられて居た身も、不具者になっては、どうともする事が出来ない。
生きなければならないばかりに栄蔵(お君の実父)は、自分より幾代か前の見知らぬ人々の骨折の形見の田地を売り食いして居た。
働き盛りの年で居ながら、何もなし得ないで、やがては、見きりのついて居る田地をたよりに、はかない生をつづけて行かなければならないと云う事を思うと栄蔵の胸は堅《かた》くなって仕舞う。
家中のものからたよられて居る身であるのを思えば、自分の男だと云う名に対しても斯うしては居られない気になった。
けれ共、勿論働く方法も見つからなかった。栄蔵は、一思いに、体の半分が無くなった方がどれほど楽か分らないと思うほど、刻一刻と世の中が暗くなる「そこひ」と云う因果な病にかかった事を辛がった。道を歩くにもすかしすかししなければ行かれないほどになってからは、自分でも驚くほど、甲斐性がなくなり、絶えず、眼の前に自分をおびやかす何物かが迫って居る様に感じだした。
物におどおどし、恥しいほど決断力も、奮発心も失せてしまった。
貧と不具にせめさいなまれて、栄蔵の神経は次第に鈍く、只悲しみばかりを多く感じる様になった。
今度お君を自分の妹の家へやるについても、栄蔵の頭には、これぞと云った父親らしいまとまった考えは何一つなかった。
只、母親のお節が、狭い村中の母親共に「ほこり」たいため、チンとした花嫁姿が一時も早く見たかったため殆ど独断的に定めてしまったと云ってもいいほどである。
気心の知れない赤の他人にやるよりはと云い出したお節の話が、お節自身でさえ予気[#「気」に「(ママ)」の注記]して居なかったほど都合よく運んで、別にあらたまった片苦しい式もせずに、お君は恭二の家のも
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