、息子の恭二と父子が出かけたあとは食事時の外大抵は、方々と話し歩いて居るお金が、たまらなく小憎らしかった。
みじかい袂に、袂糞と一緒くたに塩豆を入れたりして居る下等な姑から、こんな小言はききたくないと云う様な気にはなっても、気の弱い、パキパキ物の云えないお君は、只悲しそうな顔をして、頭をゆすったり夜着を引きあげたりするばかりであった。
病気になったその日からお君は絶えず、
[#ここから1字下げ]
どうしよう
[#ここで字下げ終わり]
と云う感じに迫られて居た。
この考えは、何事をもたじたじにさせた。
只どうしようと云うばかりに国許へは一度も知らせてやらなかったし、弟に来てくれとも云ってやらなかった。
それが、どう云うわけと云うではなく、只、どうしていいか見当のつかない様な心から起った事である。
塩からく、又生ぬるい涙が、眼尻りから乱れた髪の毛の中に消えて行った。
お金は、行こうともしずにピッタリお君のわきに座って居る。
お君は、救を求める様に、シパシパの眼をあいたりつぶったりして居ると耳元で、何かが、
[#ここから1字下げ]
「お父さんに来てもろうたがいい
[#ここで字下げ終わり]
と云う様に感じた。
お君は、いかにも嬉しそうに、パッとした顔をして、一つ心に合点すると共に、喜びを押えつけた様な低い鼻声で、
[#ここから1字下げ]
「父はんに、来てもらお思うとるんやけど、どうどましょうなあ。
[#ここで字下げ終わり]
と云った。
[#ここから1字下げ]
そうさねえ、それも悪かああるまいよ、
来てどうにかなればねえ。
けど、何んに来たんやら分らない様にして、只食べるばかりで帰られちゃあなお尚だが。
そいで、まあ、父さんでも来たら何ぞって云うあてがあるのかい。
「別に何ぞって――
[#ここで字下げ終わり]
お君は、がっかりした様な声で眼の隅から鈍くお金を見て返事をした。
[#ここから1字下げ]
「とにかくそいじゃあそうして見るがいいさ、いくら彼んな人だって男一匹だもの、どうにかして行くだろうさ。
[#ここで字下げ終わり]
お君は、今先[#「先」に「(ママ)」の注記]ぐにも手紙を書こうかと思ったけれ共、両眼ともが、半分|盲《めし》いて居る父親が、長い間、臭い汽車の中で不自由な躰をもんで、わざわざいやな話をききに来なければならないのを思うと、髭
前へ
次へ
全44ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング