雨滴
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)入用《い》ろう
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此頃、自然美の讚美され出して来た事は、自然美崇拝の私にとってまことに嬉しく感じる事である。
どうして今まで、ああして、そうもかまわれずに片隅になげた様にされて居たものかしらんと思う。
静かに太陽の健な呼吸を聞き、月の深遠な光明に身をひたして居ると口にまでつくせぬ、複雑な美に打たれるのである。
日々を、心ならずもいやな事、心を悩ます事の多い中で暮して居るのであるから、どこの廃市にも、満ち満ちて居る自然美になつかしむ心さえあれば、何もことさらの金と時間を費さずとも、霊の洗われ、清められる慰めを得るのであるのに……。
私は殊に、芸術家の如何なる階層の人もこの自然美の観賞と云う事に敏い眼を持って居て欲しいと思う。
私共がすでに自然の産物である以上、その親をしたうに何の批評が入用《い》ろう、
何の思考が入ろう。
或人は室中に何も置かない方がまとまると云う、
又、私の様に、何かしら、心をこめて集めたものとか美くしいものがなければ、その部屋には居られないと云う者もある。
どち
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