の隆起、跳躍の姿がとらえられる。だが、そのうちに、ダイナミックに自然法則はとらえられる。「風知草」はやわらかいクレパスで、暖かい色調の紅い線で描かれた人生の歴史的時機のクロッキーとも云える作品である。省略され、ときには素早い現実の動きをおっかけた飛躍のあるタッチで、重吉とひろ子という一組の夫婦が、一九四五年の日本の秋から冬にかけてのめをみはるような時期に生きた錯雑がとらえられている。そこには特殊であって、また普遍性をもついくつもの課題が閃いている。たとえば「後家のがんばり」というこの小説の世界にとって重要なモメントとなっている女性の生活闘争の傷痕の問題や、プロレタリア前衛党が再結集されてゆく過程及びその階級活動全般における各種の専門活動の関係とその評価についての問題。日本の監獄が治安維持法の政治犯と云っても非転向の共産主義者をどう扱ったかという歴史的事実の片鱗も描き出されている。そして、これらのことは「風知草」以前にはあるとおりの率直さで書くことのできなかった人民の歴史のひとこまである。「後家のがんばり」という簡明な要約で「風知草」にとりあげられている一つの問題は、ひろ子ひとりに関する
前へ 次へ
全26ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング