よろこぶんでもなければ只肌の柔いからと云うだけでもないんです。
私は自分の肌の柔さ、色、きめ[#「きめ」に傍点]、そんなものから思いもよらない事を想像させられます。私は自分の声に自分の声以外の何かがあるという事を思わされます。そんな事は男の人にも有るにきまってます。けれ共男が女の人を見て思うのよりも女が男の人を見て思うよりももっとこまっかい色とかおりをもって居る事を私は知ってます。
私は、自分の心の底の底までをさらけ出して居る様で、人に今まで一寸も気のつかれた事のない心をもってます。だから私は世の中の謎? 悪く云えばはっきりしないろくでなしの心かも知れません。けれ共とにかく男よりはもっと細っかい心をもった女に生れたのを嬉しく思ってます。
この頃の私はそう思ってます。気まぐれな御天気やの私の心はまたどう変わるか分りゃしませんが、まるであべこになった自分の心を自分でも不思議の様に思われてこんな事も書いて見たんです。
浅草に行って
その晩私は水色の様な麻の葉の銘仙に鶯茶の市松の羽織を着て匹田の赤い帯をしめて、髪はいつもの様に中央から二つに分けて耳んところでリボンをかけて
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