居ました。紺色のカシミヤの手袋をはめて、白い大きな皮のえり巻をして行ったんでした。
母とmとの間にはさまれて歩きました。
安っぽい絵襖紙を見る様なギラギラした感じのする下びた町すじを母の手にすがりついて物なれない人の様に特別な感じをうけながら――。行きずりのでれついた男達は私の顔をチラッと見ては意味のわからない事を早口に云ったり相手を私の方につきとばしてよこしたりして行くんでした。その中にはまだ私と同い年の位の小供から大人になる境の丁度小供の蛙みたいなととのわないみっともない形と声をもって居る男も交って居ました。そんな男を見るたんびに私は下等なきたない事ばっかりを思い出して一々知らず知らずに眉をひそめて行きすぎたあと一間ばかりは早足に歩いて居ました。
「こんな所にたまにくると嗜味が低くなった様なうすっくらい様なところにひっぱりこまれる様な気持がしますネエ」
私はこんな事も云いました。
人と沢山沢山すれ違って漸く私達は目的にして居たクオ・バディスをして居る活動の前に立ちました。
私は家を出るときから斯うした冬の夜に歩くという事や、始めて活動専門のああいうところに入って見るという
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