男でありたい――斯う思ってマアどれ位私は苦しいいやな思いをしたか――
 私は自分が女に生れたという不平さに訳もなく女というものをいやに思って悪しざまに云って、自分の女というのを忘れたいとして居ました。そういう時は随分長い間つづいて居ました。女がいやだと云ったって年は立ちますもの。私の指の先には段々ふくらみが出来、うでの白さがまして行きました。そして私は今の年になったんです。今の私の年になってから急にまるであべこべに私は自分が女だった事を割合に感謝する様になりました。何故って――私達とおない年頃の男の子を御らんなさい。妙にがさがさな声を出したりいやに光る眼をもって居たり、あれを見ると私はむかつく様になってしまいます。ほんとうに何ていやな見っともない事なんでしょう。それが女はどうでしょう。
 皮膚はうるおいが出て来て、くびがきれいに見える様になりましょう。それで声だってまるであべこべで丸アるいふくらみのある音に響くじゃありませんか。肩の柔かさ、指先の丸み――。女の美くしさはますばっかりですもの。
 あれとこれ――あれとこれ――とくらべて私は自分の女だって事を此頃はよろこんで居るんです
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