ッと思われる。新橋の何とかと云う妓《コ》だったってきいた事があるが、今の年でこの位なら若い時にはキットさわがれて居たんだろうと思う。四人の娘達がかくれてばっかり居ていくらよんでも出て来ないんでいやな気持になったからプイと出て浅草の仲店に行って見る気になって電車にのる。沢山のって来る女の中でマアと思う様なのは一人もいやしない。芸者らしくない芸者を見たりみっともなく気取った女を見たりするとつくづく素足で何とも云われないほど粋な様子をして居た江戸時代の柳橋の芸者がなつかしくなる。仲店を幾度も幾度も行ったり来たりして三四枚スケッチと玩具の達磨と鳩ぽっぽとをふり分に袂に入れて向島の百花園に行って見る。割合にスケッチも出来なくってイラついて来たんで電車にのって山下まで行った。あのうすっくらいジメジメしたとこに帰るんだと思うとたまらなくなってしまったんで又九段の友達の家に行く。二人でやたらにシンミリと紙治の話をしこんでしまった。あれもほんとうによかったネ、私だってないたサ、あの着物そっくり着て見たいと思ってるんだ。私は紙治のまぼろしと心中してしちまいそうだなんて云ってたほどだから……たまらなくうれし
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