も無雑作にかみをつかねて気楽そうな様子をしてながら時々妙にジッと見て居り、深く深く心にさぐりを入れて居る様にだまって居て見たりするまだ年の若い娘の事が妙に気にかかる。「マ、どうでもいいさ、人なみに御飯をたべて居る人間なんだ」こんな事を云っておう来の見えるまどによっかかった。弁当をぶらさげた職人や御役人さまというみじめな名にとりこになって居る人間達が道に落ちてるゴミ一本でもためになればのがさずひろって行くという様な前っこごみのいやな風をして歩いて行くのが見える。つくづく自分ののんきさがうれしく思われる。
親父にはどんな事があってもなりっこなしにするのさ――どじょうっぴげを気にしながら小供のお守をして居る親父殿を見るとすぐ斯う思われた。何かすぐ筆の下せる様な人が通ればいいがナアと根気よくまって居たが、来るどころか皆いやな様子のものばっかりが通る。何とはなしにかんしゃくが起る。かんしゃくが起ると自分の体をあつい鉄の板の上になげつけてやりたい様になるって云ってたっけが、一つここからとんでやろうかナ、立ち上ってフト――窓からは飛ばずに階子をかけ降りて三味線をつかんで又かけ上った。
調子なんか
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