のもよせて来られないと見えて気は段々かるく力が出て来た。哀れなみなし子がその救主を見上げる様なオロオロしたはずかしそうな目つきをして、若々しいまるい顔にこぼれる様なほほ笑みをうかべてウットリと見入って居る舞子の姿を見上げた。とろける様なうれしい気持になって一人手に、こわばった様になった口元がほどけてまるで若い娘がする様にうなだれて畳の目を見ながら肩を小さくふるわしてクスクス云って居た。その様子をヒョッと想像するとたまらないほどおかしくなって、今度はわだかまりのないカラッとあけっぱなしの気持で笑った。
「妙な奴だ」と思いながら、二階のユサユサするほど足に力を入れて歩き出した。下でおっかさんが「何だネエ、だだっこ見たいに、ねだがぬけちゃうワ」こんな事をいって居るのを小耳にはさんでクスリと肩を一ゆすりしてきりぬきのゴッチャゴチャになげ込んである襖のない戸棚の前に丸くなって座った。かたそうかとも思うけれ共めんどうくさくもあるし、と思って何か気に入ったのはあるまいかと思ってしわクチャになるのもかまわずあさったけどどうしても手ばなしたくない様なのが見あたらない、「いやんなっちゃあうなア」何ともなし
前へ 次へ
全85ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング