立った事はありゃしませんよ、ほんとうに、あんなものは二言目には金なんだから……」
「……」私は一寸何と云っていいか分らなかった。あたり前にお気の毒さまなんかって云うのがいやだったんでだまって居ると、「貴方モデルになって呉れませんか」こんな事を云い出した。
「なったってようござんすワ、だけど私が私の勝手でした風が貴方の気に入ったんならお書きなさりゃあいいわ、毎日でも……わざわざ私の気から出たんでもなくって、貴方の心のまんまの形を作るのはいや……」
「何故?」
「何故って……あれじゃあありませんか、貴方が今私に本を見ていらっしゃいって云ったからってその風をしたって、私の心の中にそんな気分がなければ、形と気分とはなれたものになっちゃあうじゃありませんか。だから私が心ん中から思ってした様子はいくたびしたってまるで気持と形のはなれきったものにはなりませんもの……」
「そいじゃああんた中々そう私の思う通りの風はしないでしょう?」
「そりゃあそうかもしれませんワ、私はどうしても心にない様子や事を云うのは大っきらいなんだからしようがりゃしません」
私達はてんでんに別な方を見て斯んな事を云って居た。
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