――」
「誰だってそんな事思うでしょう……我ままじゃなくしたってそうにきまってるんですもの……そいで又、親なんかになるとまるで自分の若い時は人間じゃなかった様に若々しかった気持、たえず震えて居た心なんかって事はまるで思いきったほど忘れてるんだから……」
「そうですよ、ほんとうに、エエほんとうにそうなんです。忘れるも忘れるもいじの悪いほどきれいに忘れて生れ落ちるとすぐっから世間を知って居た見たいにサ、私達にはしゃべってるんだから妙なもんですよ、頭なんて云うものは」
「まるで忘れてるって云うんでなくったって、新らしいゴムマアリの様に力強い若々しい嬉しい事、悲しい事のしみじみと思われた時代を気のぬけた風せんの様にクチャクチャになってしまった今日思い出すのはキット辛い事でしょう。だからわざと思い出すまい思い出すまいとしてるんでしょう。私はそんな風に思われます……それがあたってましょうキット……」
「私達みたいに若いもんでさえ、落椿を糸で通してよろこんで居た事を思い出すと寒い様な気んなりますもんねエ」
「……」私はフットさしてある首人形を見てお妙ちゃんを思い出してしまった。うつむいてかるく目をつ
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