せる様に、はすっかいにとめてある。唐紙、カンバス、絵の具、なつかしい切り抜きの絵、文芸雑誌――そんなものがいっぱい散らかって漸く私達の座る事の出来る所だけすきのある様なせまい二階に二人は熱にうかされた様に話し合って居る。だらしないとりとめのないような部屋の中にもどことなしに私の心にピッタリとあう、なつかしさとにおいがただよって居る、髪を一寸ながくして内気なかおにかるい笑と力づよさをうかべて一生懸命に話す若い絵書きの前に、私は髪を一束につかねて、じみな色のネルを着てその人の絵絹の上に細筆を走らせる時の様に、かすかに動いて居る様な手を見ながらその話にききほれて居る。
「話し相手がないもんですからネ」こんな事を云ってその人は思ってる事――今まで話す人がなくってためて置いた事をあらいざらい云ってしまわなくっちゃあならない様に話して居る。
「いやんなっちまうんです、ほんとうに、老[#「老」に「(ママ)」の注記]よりばっかりですもん、どうでも私の思ってる事なんか分るもんですか。それで居て勝手な事ばかり云って居るんだもの……私達が又今の親達位の年頃になれば子供にこんな事云われる様になるんだろうけれ共
前へ
次へ
全85ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング