のない高笑いをした。
 もう男にすれきった女のする様な大胆な凝視を、男の瞳の中になげ込んで男の心の奥の奥までを見ぬきたい様な、片手でつかまえて片手でつきとばしてやりたい様な気持になった。
「一寸の間しずかに落ついて何にも考えずにおいで、又今夜ねむられなくなってしまうからサ」
 男は不安心らしく小さい声で云って肩を押してまどの日かげに座らせた。女は音なしくされるままになって、よろこんで居ながら反抗する気持やフッと男のやたらにみっともないものに見える事のあるのやを、ふしぎな情ない事の様にも又何となくくすぐったい事の様にも思った。頬杖をついて目を細くしてジーッとして居るのにあきた女は、鼻の方にあくびをもらして男の腋を一寸小突いた。クルリッと見向いた男の目の中に、女はいかにもかけ引きをして居る様な損得ずくらしい様な光りを見つけた様に思って、
「何考えていらっしゃる?」
 いまいましそうな調子にとんがり声で男にきいた。
「何? 人間は考えなければならない様に作られてるんだから何かしら考えてるサ!」
「何を考えろって云う事は出来ない?」
「云ったって云わないだって同じ事じゃないか?」
「だって――
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