向の事なんか一寸も知りあわずに居た方がいいとも思ってる……」
「そいじゃ張合がないんじゃないか」
「だってしようがありゃしない、いやな事にぶつかってしかめっつらをして又あともどりするより、笑いながら始めっからぶつからない様にして居た方が好いと思うから」
「もうおやめ、これがすめば又かんしゃくを起すんだろう? おやめ、下らない、もっとおだやかな気持をいつでも持ってなくっちゃあならないよ」
「だって考えられるんだからしかたがない、ネ、そうじゃない? 『愛情の夫婦生活はそう長くつづくものではない、今さめたんだよ、これからは二人の間の忍耐力をためされる時が来たのだ、こらえろよ、ナ、こらえろよ』決闘ん中にあるじゃありませんか、斯う――
私はこんな事を思う様に、又人から云われる様にはどうしてもなりたくないんだもの……」
「ほんとうにおやめ、今日はよっぽど亢奮して居るよ、もっとのんきな事を話し合ってたっていいんだから」
「エエ」
女は気のない返事をして、男は一寸もこんな事を考える事はないのかしらんと思った。男の手を後から廻して自分の手をもちそえて頭を力いっぱいにしめつけた。そして神経的なまとまり
前へ
次へ
全85ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング