をゆすった。
「斯うやってポッカリと浮いた様な様子をして居られなくなっちゃった」
 なげつける様に云って、寝椅子からとび上って湯殿にかけ込んで、水道の下にかおを出してザアザア目をつぶって水をかけた。白いタオルでスーッとふいて四季の花をつけて、西洋白粉をはたいて、桜色の耳たぼとうるみのある眼を見つめた。女らしいやわらかさとかがやかしさを今見つけた様に、
「だから女がすきだって云うんだ!」
と鏡の中の自分に云った。一寸首をかしげてあまったれる様な様子をして笑って見た。白いよくそろった前歯は、まっかな唇の下に白い条を引いた様に光って出た。
 ソーッと頬を両手で押えて見たり、眉をかくして見たり、唇をつまんで見たりして居るうちに、たかぶりかけた感情は益々動いて、重っくるしい様なくすぐったい様な気になって目の中に涙がにじみ出て来た。
「行って来ようや、しようがりゃしない!」
 麻の葉の着物の衿をかき合わせて、羽織のひもを結びなおして髪をすいた。こんな事を出がけにはどんな時でも忘れずにするって云うのも女だからなんかと思いながら、上り口から低い赤と白の緒の並んですがった白木の下駄をつっかけて出た。
 
前へ 次へ
全85ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング