な――」
 私が自分のかおを自分で批評して居るのを傍でおけいちゃんは目で笑って見て居る。
「こんどはお敬ちゃんの番」
 私はこう云って、このお敬ちゃんのかおを自分の思う通りにして見ようと思った。お白粉もそんなにはつけず、一寸の間にお敬ちゃんのかおはまるで違って鏡にうつった。
 二人は一つ鏡に並んで座って、笑い合って見て居た。
「もうあっちにきましょう」
 お敬ちゃんは前歯で帯どめをかみながら先に立った。小声で「己が姿を花と見てエ」ってあの歌をうたって居る。
 私はもう、何とも云われない、おだやかなボーッとなる様な気持で、こまっかいふし廻しの唄をきいて居る。
 私の頭ん中には、もうよっぽど前っから思って居た事が、今日現れたと云う様にこんなにうれしいしずかな一日を暮される事が涙のにじむほどうれしかった。
「こんな好い日を送られるのも私達が若いからだ」
 フッと思って私は自分の肌からにおって来るあまい香りを、いつまでもいつまでもしまっておきたかった。

     〔無題〕

 何となく斯うポーッとする様なお天気なんで、血の気の多い女は身内からうずかれる様な気持になった。
 ムッチリした指の先
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