光る髪がキリキリと巻きついて居る。
 古い錦絵、紙人形、赤いつまみの櫛の歯の黒髪、これだけの間に切ってもきれないつながりがある様に――又その間からしおらしい物語りが湧いて来はしまいかと思われた。
 雨のささやきに酔った様にお敬ちゃんは、机につっぷしてかすかな息を吐いて夢を見て居る。スーッとかるく出したたぼ、びん、耳から肩にかけての若々しいかみ。
 私はどうしてまあ、今日はこんなにウットリする様な事ばっかりあるんだろうと思いながら、長い袖でお敬ちゃんの首をかかえた。そして自分も夢を見て居る様に身うごきもしないでジッとして居た。いつまでもいつまでもおけいちゃんは目をさまさなかった。フッと身ぶるいをしてかおをあげたお敬ちゃんは、いきなり私のかおを見るなりつっぷしてしまった。
「どうして? うなされたの?」私はうす赤くなったまぶたを見ながら云った。
「イイエ、今までこんなに長い間、私はねてたんでしょう、随分何だ事……」
 こんな事をひっかかる様な口調で云って、肩をこきざみにふるわして笑った。それから二人でわけもなく笑い合いながらお風呂場に行った。
「顔を洗うだけネ」
 廊下でこんな事を云ったの
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