敬ちゃんはこんな事を云って頭をなでて見たり、こまっかいひだをさすったりして居る。
「紙人形は首人形と同じ位、私の大好きなお人形さんだ。あたまのこまっかいひだの間なんかにはキットおばあさま、おかあさま、ばあやなんかの思い出がこもってる様でネエ」
こんな事も云った。
「ネ、お敬ちゃん、お染とお七と――その気持の出る様なのを作って見ない」
私がものずきにこんな事を云い出した。
それから二人はまるではなればなれの気持になって、白い紙と糸と、幼い色をした千代紙で、自分の心にうつって居るお染なりお七なりを表わそうとつとめて一つ鋏を入れるのにでも気をつかった。
「出来て?」
小さな声できくと、
「私、思う通りに出来ないんだもの」
おけいちゃんは斯う云ってフンワリ丸味のあるかおに高島田に結って、紫の着物に赤い帯を猫じゃらしにむすんだ人形をポンとひざの上になげ出した。
「もうやめましょう」
私達は一どにこう云って、細くて長い雨足をシックリ合った気持で見て居た。
パタリとしとやかな音をたてて、お敬ちゃんのあたまから赤いつまみの櫛が落ちた。拾おうともしないでそっと見て居ると、すみの方の足に細い
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