人の外の男としたしくしたのを女が悔いる様に私はよけい銀座の町にはげしいなつかしみをもってる様になったんでした。

     〔無題〕

 外には木枯しがおどろくほどの勢で吹きまくって居る。私は風を引きこんで出た少しの熱に頭中をかき廻される様に感じながら、わけもなく並んだ本の名前を順によんで行って見たり読む気もなくって一冊ずつ手にとったりして居た。
 ひがみ根性の様な耳なりはどんなにしてもまぎらせられないほどつきまとってシーンシーンとなって居た。
 だれにあたり様もない私は、いまいましそうに壁をにらんだり綿細工の狸をはじきとばしたりした。
「いやんなってしまう」
 私はわきの筆立にみっともない形をして立って居た面相をとって歯の間でそのこじれてかたまった穂をかんだ。恨んで居る様なゾリゾリと云う不愉快な音はあてつける様にほそい毛の間から起った。
 玩具のふくろうを間ぬけな目つきをしてポッポーと吹きならして見たり、とんだりはねたりもんどりうたして見たり、盛花の菊の弁をひっぱって見たりして、私はどれからも満足したふっくりした気分をうけとれないいまいましさに、いつものくせにピリッと眉をよせた。
 
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