時わざわざよろける様にしては私のひざを小突まわすその意味が恐ろしいほど私に分りました。
 私はその男の心をすっかりよみつくしてしまった様な顔色をして正面を見つめた眼をうごかしませんでした。そうして一寸さわったり小突いたりするたんびに、それよりもつよく目立つほど私は動[#「動」に「ママ」の注記]をうごかしてその男の私のそばによれない様にして居ました。
 こんな事のあるのも浅草だから――私はあきらめた様にこんな事を思って居ました。
 私が山下で降りるまでその男は私の前を動きませんでした。男の動かないと同じ様にそのどんづまりまで女王の様なツンとした態度をゆるませませんでした。
 電車を降りて車にのった時、私はその男に勝った様にあの男の時々したうだうだな様子を思ってうす笑いをしました。
 三年振りで行って見た浅草の町の空気の中から私はいろんな今までとまるで違った感じを得たんでした。
 私のほしいと思って居た浅草提灯はなく、三年前頃までのあすこの空気とまるで違った、前よりも一層なつかしみのない三年に一度位行く筈のところの様に思われて居ました。
 銀座の町のすきな私は、浅草の町に行ったと云う事が恋
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