さえ知る事が出来ました。
「あんまり何なら見ない方がいいよ」
 母はこんな事を云うほどでした。
 ざっと四時間ほどの間私は一寸もゆるみのない気持で見て居る事が出来ました。
 一番おしまいのフィルムを巻き終った時もそこを出て道を歩いて居る時も私の心は芸術的なととのった形になって今ここで一声うたい出したら死ぬまでつづけられそうな詩が出来そうな自分の心持の全体が一つものに結晶してしまった様なだれにもさわってもらいたくない気持になって居ました。
 母とmさんは御土産の相談をして居ました。
 母はかなり綺麗な女の居る店で、かわいらしいこんな時ににあわしいお菓子を買いました。
「お父さまにネ」
 こんな事を云って居るのもいかにも柔くやさしく私の心にひびいて来て居ました。
 うすっくらい悪い事の胞子がいっぱいとび散って居る様なまがりっかどの、かどに居る露店のおばあさんのところに先有楽座の美音会の時にあった様なとんだりはねたりや、紙人形やなんか私のすきらしいものばっかり並んで居るのを母は目ざとく見つけて呉れました。
 私はその前に後にそる様ななりをして立ちどまって調和のいい色をした小さいの二つともっと
前へ 次へ
全85ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング